コッククロフト・ウォルトン昇圧回路は、「低圧の交流電圧もしくはパルス直流電圧を入力として、高圧の直流電圧を生成する電気回路」である。(Wikipediaより)
また、東京大学の2011年度入学試験問題にも出題された。「東京大学」「試験」「2011」「物理」「コッククロフト」等で検索すれば問題と回答例が得られる。
(東大へ申告書を出さないといけないため掲載は省略)
この回路につき、数列を用いてスマートに解いている事例もみられるが、難解であるため、ゼロから充電したらどうなるか計算し、数列であることを見出して充電回数が→∞の時の状態を想定することにした。
0.回路は左図のようなものであり、正負電源(±Vo)のスイッチを切り替えてコンデンサ・ダイオード段へ電圧を印加するようになっている。
なお、コンデンサC1~C4の静電容量は全てCとし、C1~C4の電圧をV1~V4と表記する。
1.まず、正電源(上側)にスイッチを切り替ると、順方向電圧が掛かるダイオードD1がONになり、V1=VoとなるまでコンデンサC1が充電される。
充電量は、Q1=CVo となる。
また、V1=Voとなる。
2.次に、電源を負電源(下側)に切り替えると、D1には電源電圧とC1の電圧V1=Voを合計した2Voの逆方向電圧が掛かってOFFになり、D2は順方向電圧となってONになる。C1の+極にあった電荷CVoの一部は、C2の充電に使われる(電荷保存則)。
このとき成立する式は、
(電荷保存則により)
Q1+Q2=CVo・・・(1)
(電源Vo~C1~D2~C2の閉回路の電圧合計は0により)
Vo+(Q1/C)+(-Q2/C)=0・・・(2)
CVo+Q1-Q2=0・・・(2)'
(1)+(2)'
2Q1+CVo=CVo
Q1=0
Q2=CVo-Q1=CVo
また、V2=Voとなる。
3.再び電源を正電源(上側)に切り替えると、D1はONになりC1が充電され、D2はOFFになる。
このとき成立する式は、
【C1につき】
Voで充電されるのみであり、Q1=CVo
【C2につき】
電荷は保存され、Q2=CVo
4.再び電源を負電源(下側)に切り替えると、D2がONとなってC1の電荷の一部でC2が充電される。
このとき成立する式は、
【C1、C2につき】
(電荷保存則により)
Q1+Q2=CVo+CVo・・・(1)
(Vo~C1~D2~C2の閉回路の電圧合計は0により)
Vo+(Q1/C)+(-Q2/C)=0・・・(2)
CVo+Q1-Q2=0・・・(2)'
(1)+(2)'
CVo+2Q1=2CVo
Q1=(1/2)CVo
Q2=CVo+Q1=(3/2)CVo
5.再び電源を正電源(上側)に切り替えると、C1が充電される。
このとき成立する式は、
【C1につき】
Voで充電されるのみであり、Q1=CVo
【C2につき】
電荷は保存され、Q2=(3/2)CVo
6.再び電源を負電源(下側)に切り替えると、C2が充電される。
このとき成立する式は、
【C1、C2につき】
(電荷保存則により)
Q1+Q2=CVo+(3/2)CVo・・・(1)
(Vo~C1~D2~C2の閉回路の電圧合計は0により)
Vo+(Q1/C)+(-Q2/C)=0・・・(2)
CVo+Q1-Q2=0・・・(2)'
(1)+(2)'
CVo+2Q1=CVo+(3/2)CVo
Q1=(3/4)CVo
Q2=CVo+Q1=(7/4)CVo
7.再び電源を正電源(上側)に切り替えると、C1が充電される。
このとき成立する式は、
【C1につき】
Voで充電されるのみであり、Q1=CVo
【C2につき】
電荷は保存され、Q2=(7/4)CVo
8.再び電源を負電源(下側)に切り替えると、C2が充電される。
このとき成立する式は、
【C1、C2につき】
(電荷保存則により)
Q1+Q2=CVo+(7/4)CVo・・・(1)
(Vo~C1~D2~C2の閉回路の電圧合計は0により)
Vo+(Q1/C)+(-Q2/C)=0・・・(2)
CVo+Q1-Q2=0・・・(2)'
(1)+(2)'
CVo+2Q1=CVo+(7/4)CVo
Q1=(7/8)CVo
Q2=CVo+Q1=(15/8)CVo
9.再び電源を正電源(上側)に切り替えると、C1が充電される。
このとき成立する式は、
【C1につき】
Voで充電されるのみであり、Q1=CVo
【C2につき】
電荷は保存され、Q2=(15/8)CVo
10.再び電源を負電源(下側)に切り替えると、C2が充電される。
このとき成立する式は、
【C1、C2につき】
(電荷保存則により)
Q1+Q2=CVo+(15/8)CVo・・・(1)
(Vo~C1~D2~C2の閉回路の電圧合計は0により)
Vo+(Q1/C)+(-Q2/C)=0・・・(2)
CVo+Q1-Q2=0・・・(2)'
(1)+(2)'
CVo+2Q1=CVo+(15/8)CVo
Q1=(15/16)CVo
Q2=CVo+Q1=(31/16)CVo
11.再び電源を正電源(上側)に切り替えると、C1が充電される。
> このとき成立する式は、
【C1につき】
Voで充電されるのみであり、Q1=CVo
【C2につき】
電荷は保存され、Q2=(31/16)CVo
上記の計算結果について、C1~C2の電荷をCで割ったもの(=電圧)を下表に示す。
スイッチ=上側 | スイッチ=下側 | ||||||
V1 | V2 | V1 | V2 | ||||
電圧 | 差分 | 電圧 | 差分 | 電圧 | 差分 | 電圧 | 差分 |
Vo | - | 0 | - | 0 | - | Vo | - |
Vo | 0 | Vo | Vo | (1/2)Vo | (1/2)Vo | (3/2)Vo | (1/2)Vo |
Vo | 0 | (3/2)Vo | (1/2)Vo | (3/4)Vo | (1/4)Vo | (7/4)Vo | (1/4)Vo |
Vo | 0 | (7/4)Vo | (1/4)Vo | (7/8)Vo | (1/8)Vo | (15/8)Vo | (1/8)Vo |
Vo | 0 | (15/8)Vo | (1/8)Vo | (15/16)Vo | (1/16)Vo | (31/16)Vo | (1/16)Vo |
Vo | 0 | (31/16)Vo | (1/16)Vo |
各段階において、前段階からの「差分」をとると等比数列となっているので、電圧値は等比数列の和で表される。
「スイッチ=上側」の「V2」の「差分」は
ΔV2=Vo×(1/2)^(n-1)であり、これは初項a=Vo、公比r=1/2の等比数列である。
V2は等比数列の和の公式(ar^n-a)/(r-1)から
V2=(Vo×(1/2)^n-Vo)/((1/2)-1)=2Vo(1-(1/2)^n)
(1/2)^∞=0であるから、V2の最終値は2Voとなる。
また、V1の最終値はVoとなる。
(おわり)